徒然塚

ヅカあればこそ、生きる喜び

宝塚月組「1789-バスティーユの恋人たち-」

さて、フランス革命である。

タカラヅカ好きはフランス革命に詳しい。フランス王妃とスウェーデン兵士の許されぬ恋、王家に仕える近衛兵が市民の革命に参加、フランス貴族の亡命を手助けするイギリス貴族、信念を貫いた革命詩人が愛する娘とともに処刑、革命後のフランスを支配した某ナポ礼音の話なんかもあった。概ねは貴族目線、市民はモブ。しかし1789ではモブ要員である市民にスポットライトを当てたタカラヅカ的には斬新な作品である。


私はどちらかというと所謂「まさお節」が苦手な方なので、正直月組公演に足を運ぶ回数は少ない。きりやん退団公演のエドワード8世のまさおはとっても良かったし、ロミオの時には感じなかったのだけど、、節感が年々ハードになってる気がするんだけど、、何故?前回月組を観劇したのは3部作の時かしら。すきだったちなつ(鳳月杏)ちゃんも今や花男だし。今回も行く予定はなかったのだけど、行きたいという友人に引っ張られて日比谷へ向かった次第である。そのことを前提として、今回の感想。

 

先に述べたように、1789という作品自体、タカラヅカ的異色な題材の作品だ。そして中身も、トップコンビが愛し合うタカラヅカスタンダードではなく、“男役トップスター龍真咲”と“娘役トップスター愛希れいか”の実質的W主演のイレギュラーなものだった。

イチ市民のまさおロナンと王妃ちゃぴアントワネットは違う階級・場所で、同じ時を生きながら交わることはない。革命側と王室側がそれぞれに主役を置き物語を進めないと成り立たない。

個人的にはトップコンビが主役と相手役を演じるという型から外れた今回のスタイルは全然アリだと思った。というかそれを張れるだけの女優力が、ちゃぴにあった。

 

1789年、バスティーユ監獄。蜂起した民衆たちとフランス軍隊が衝突。混乱の最中、一人の青年、ロナン・マズリエが、監獄につながる括られた吊り橋を落とすために壁を登りはじめる。

話は遡り、1788年。困窮している農民から尚も税金を徴取する貴族に抗議したロナンは銃を向けられ、それを庇ったロナンの父が撃ち殺される。父の仇を討つため、ロナンはパリへと向かう。パリでは革命家たちが今にフランスは崩壊する、今こそ革命の時だと教え、革命の足音は忍び足で迫って来ていた―――


まさお節は苦手と言ったけれども、やはりまさおのスター感はすごい。華やかさ、立ち姿の美しさ、紛れもなくキラキラしたタカラヅカのトップスター。あの拷問の場面はちょっとどうしても笑えてきちゃうんだけど。笑

ただなんと言うか、まさおが演るからロナンが主役なわけで、まさおじゃなかったらロナンは主役じゃなかったと思う。

まさおだからという説得力がロナンを主役にしていた。


舞台の物語の主役には、ドラマチックな人生が必要である。父親が殺されて仇を討つためにパリに向かうってのは十分ドラマチックなんだけれど、その先が、薄い。

パリに向かったロナンは革命家たちに感化され、一緒に自由のために立ち上がろう、と、革命派に加わった。でも農民出のロナンには学がなく、知識人の革命家たちとの間にある格差に気付き、一度は活動への不信感を募らせていく。その中でパリで出会ったオランプと恋に落ちる。でもオランプは王妃の侍女、自分は革命派、立場の違いから二人が結ばれることは許されなかったが、革命の混乱の中、王妃から自由を与えられたオランプはロナンのもとへ、ようやく同じ立場で愛し合えると思ったら…。これだけ見たらサブタイトルはバスティーユの恋人たちになるんだろうけど、多分、いろいろな部分を盛り込みすぎて、この二人の愛の物語としても薄すぎる。そういう意味でのこのサブタイトルへの違和感。タカラヅカは基本的に男女の愛の物語でなければいけないから、これはちゃんと愛の物語なんです、って自分で言ってこじつけてるだけに思えるのである。愛の物語にしたいのなら、ロナンとオランプだけじゃないほうがよかったのではないだろうか。革命家たちにだって恋人はいたはずだし、革命派の市民というくくりではロナンも革命家たちも同じなのに、ロナンの恋愛だけを取り沙汰すからおかしい。まあでも、ここはタカラヅカで、ロナンはトップスターが演る主役だから。

その分、ちゃぴアントワネットの存在感である。また別の場所で別の物語が進む。マリーアントワネットが正しく主役の、マリーアントワネットの物語。フランスの財政難など露知らず、ギャンブルに明け暮れ、外国人の貴族と不倫。この行動が市民の怒りを買い、処刑という最期を迎える。でもそれは全て、王妃の無知が招いた悲劇。

何も知らない子供のまま、政略結婚でグレていた王妃が、自らの浅はかな行動が招いた革命という結果を受け入れ、フランスの王妃としての自覚と覚悟を持った女性に成長していくその物語がきちんと描かれていた。こんなに出来る子になっていたとは…。ちゃぴの銀橋の歌に私の涙腺も崩壊した。

みやるりの妖艶なアルトワ伯爵、ブラボー!一人異色で、せっかくならアルトワ伯爵を狂言回しに使えないかなとか考えたり。オランプとの絡みもあるし。王族すぎるけど。たまきちはがっしりしていて見ていて安心する。カチャコマもさすがの安定感。でも月組はいつまで番手を曖昧にするのだろう。なんだか、他の組なら即番手ついてもおかしくないレベルのカードを3つも並べて、、と贅沢に思えてしまう。


オリジナル版では、物語をぶったぎって歌が始まり、歌は物語には関係してこないものなんだと言う。つまり1789は、革命という時代をテーマにしたショー、エンターテイメント、というカテゴリーなのだろう。

そうか、そう思えばいいのか。それなら、すごく楽しい。群舞の場面とか、隅っこの下級生まで歌える、踊れる、揃ってる、なんて熱いんだ月組…!全然観てないから知らなかった…!見るところが多すぎて目が足りない。結局友人と2人で最後にプログラムを購入、観劇後飲みながら下級生の写真を見漁る…。

あ、あと噂の暁千星くん、フェルゼン役頑張ってたし、ショーで大階段からまさおと降りてきたときあの背の高いイケメンは誰…?と思ったら彼でした。今後に期待のスターさんですね。


しかしながら、イケコ、よくこんな作品をタカラヅカにぶっこんだよなあ。でも今の月組にしかできない作品であることには違いない。タカラヅカピラミッド的には、2番手以下不明瞭というのはあまりいただけないけれど、できる人たちがうじゃうじゃいる組じゃないとできなかった作品。


東宝版はタカラヅカのような制約はないだろうから、よりスペクタキュルミュージカル!ショー!エンターテイメント!としての演出を期待する。何よりお花様がマリーアントワネット…!先の東宝エリザベートは本当に素晴らしかった。間違いなく生まれながらの王妃役者。そしてかなめちゃんもオメデトウ。

さて、最後に。今回は、王妃マリーアントワネットであり、ちゃんと主役の一人であった娘役トップスターちゃぴに、一番大きな拍手を送りたい。


稚拙ながら、初感想文、おわり。

誤字脱字偏見は悪しからずご了承ください。